「不動産鑑定評価基準」が平成13年になって10年ぶりに改定されました。この「不動産鑑定評価基準」は、不動産鑑定士等が不動産の鑑定評価を実施する際の指針となるもので、必ずしも実勢価格に直接影響を与えるものではありませんが、その内容を知ることは、自らが保有している不動産資産の価値を把握する上でも有益なことと考えられます。そこで、今回の改定で大きな改正が行われた「収益還元法」についてご紹介したいと思います。
1. 「収益還元法」とは
不動産鑑定評価基準では、不動産の価格を判定するにあたって、(1)「その不動産を作るのにいくらかかかるか(原価法)」、(2)「その不動産と類似の不動産はいくらで取引されているか(取引事例比較法)」(3)「その不動産を利用したらいくらの収益が得られるか(収益還元法)」の3つの方向からアプローチするものとされています。
このうち、(3)の収益還元法は、収益不動産(=賃貸用不動産)について特に有効とされており、その手法を簡単に言うと、その不動産を保有(賃貸)することにより得られる収益(固定資産税などの税金や、管理費などの費用を控除した純収入)を特定の利回り(正確には「還元利回り」と呼ばれています)で割り戻すことにより、価格を求めるもので、この考え方は、収益不動産投資をするときなど、不動産鑑定評価以外の場面でも広く活用されています(不動産の価格 = 収益 ÷ 利回り)。
2. 不動産の収益性をより正確に把握するために
従来の収益還元法は、基本的には「1年間」の収益を利回りで割り戻すことにより価格を求めることとしていました(正確には、「直接還元法」と言われています)。しかし、実際の不動産投資は、少なくとも5年以上の長期投資が通常であり、1年間の収入だけで、将来の収入見通しを考慮しない方法では、不動産価値を判断できない面がありました。また、不動産の証券化や、不動産投資信託などの関係者の間では、「不動産の収益性をより正確に把握したい」というニーズから、従来の収益還元法よりも毎期のキャッシュフローを的確に反映できる手法として、「DCF法」を活用しての不動産投資判断を実施するケースが増加してきていました。
そこで、今般の「不動産鑑定評価基準」の改定では、従来の方法に加えて、このDCF法も収益還元法の一手法として導入されることとなりました(必ずしも、全ての不動産鑑定評価にDCF法が適用されるわけではありません)。
3. 「DCF法」とは
DCF法は、その不動産の保有期間中に得られる収益と、保有期間満了後の売却によって得られると予想される価格を現在価値に割り戻して足し上げるものです。そのため、毎年の賃料収入が変動することが予想される場合には、その変動や、保有期間満了後に売却したときの価格をも考慮した価格を求めることが可能になるといわれています。
DCF法は、複雑な計算式を用いる手法でもあり、専門知識の要求される側面も多いですから、不動産投資の際に不動産鑑定士以外の人が実施するには難しいかもしれません。しかし、収益不動産投資を検討するときには、短期的な収益性だけでなく、保有期間全体の収益性(将来の賃料相場、空室発生の危険性など)、あるいは将来売却したときの資産価値などを考慮することが重要といえそうです。